物語5
知識を確認する
他の学習者と議論する
ミネルヴァ大学の衝撃と10年先行していたGSIS(次世代の大学を想像する)
次世代の大学をイメージする格好の材料として最近、注目を集めているのがミネルバ大学である。耳にしたことがあるだろうか。私たちが注目する特徴は以下の通り。信じられないことばかりであるが、実在する大学である。
・2014年9月サンフランシスコにて開校。講義をしない。対面指導をしない。キャンパスがない。・学費が比較的安い(年間授業料は約145万円、寮費は約100万円)・受験料無料で合格率はわずか2.8%、学期ごと世界7都市で全寮制(サンフランシスコ、ソウル、ハイデラバード、ベルリン、ブエノスアイレス、ロンドン、台北)・学生は全寮制だが、教員はそれぞれの居住地から学生18名との議論に遠隔参加。それを可能にする独自開発の「アクティブ・ラーニング・フォーラム」・4つのコアスキルを教える独自カリキュラムで1年生は全員必修の学び方学習、2年生から徐々に専門を絞り込んでいく。まずは、以下のネット上の記事から、イメージを持ってもらおう。とくに、はじめての日本人学生としてミネルバ大学に入学した日原さんの連載記事は読みやすく、学生目線での報告である(自らを「生徒」と称しているのも現役学生らしくて好感が持てる、と捉えておこう)。・日本人ミネルバ学生(日原翔さん)の記事:ミネルバのふくろう(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)注:第1回から8回までの数字それぞれにリンクがあります。
・知識ではなく考え方を学ぶ、新設オンライン大学「Minerva」のヴィジョン(2015)Wired提供
・ミネルバ大学創立者 ベン・ネルソン氏インタビュー(2016)FutureEduTokyo提供
・世界で最も入りにくい大学、「ミネルヴァ」の3つの秘密(小林りん)(2017)ForbesJapan提供
・ミネルバ大学Webサイト(英語)
Webサイトの記事で興味をそそられたら、山本氏が執筆した書籍も参照してみよう。山本氏は、ミネルバ大学を日本に招致する活動をしていたというから、惚れ込んだ大学について、なぜ招致が功奏しなかったの理由も含めて、かなり詳細に述べている。
・山本秀樹(2018)『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』ダイヤモンド社(Amazon)
ミネルバ大学の発想や実行力、そして注目度を目の当たりにして、私たちは「やられた!」と衝撃を受けたことを思い出す。でも、実は、熊本大学に2006年に誕生したインターネット型大学院教授システム学専攻の構想も、そして物語3で紹介したストーリー型カリキュラムの実験も、それほど捨てたものではなかったと再評価もしている(自画自賛ですが・・・)。
私たちが新しい形の大学院を発想し、13年間の経験を踏まえてお届けする本講座への導入として、両者を参考に「次世代の大学」をイメージしてもらえれば幸いである。このような大学を目指すべきか否か、エリート向けの大学だけに必要な特異なケースではなく、ユニバーサル時代の大学に通う一般人にも必要なのではないか、真似できるヒントは多くあるのではないか、と私たちは考えているが、どうだろうか? 活発に議論していただきたい。
・【連載】ヒゲ講師のID活動日誌(72) :下山・鈴木対談を終えて~アカデミック・トランスフォーメーションとミネルバ大学~(2018)IDマガジン第76号掲載記事、IDポータルサイト(熊本大学)提供
・北村士朗・鈴木克明・他10名(2007)「eラーニング専門家養成のためのeラーニング大学院における質保証への取組:熊本大学大学院教授システム学専攻の事例」『メディア教育研究』第3巻2号(特集:e-Learning における高等教育の質保証への取組み) 25-35.
・Suzuki, K. (2009). From Competency List to Curriculum Implementation: A Case Study of Japan’s First Online Master’s Program for E-Learning Specialists Training. International Journal on E-Learning: 8(4), 469-478.